「資本主義は格差を生む」「先進国が途上国から搾取している」「もう脱成長すべきだ」。こうした通説をデータで検証していく本です。著者はスウェーデンの思想家ヨハン・ノルベリ。
主張は一言でいうと、今のところ、資本主義に勝る仕組みは見つかっていない。完璧だから最高なのではなく、他よりましだから最高、という立場です。
アパルトヘイトに抗議し続けたのはバス会社だった
本書で紹介されている例で一番印象に残ったのがこれです。
アパルトヘイト下の南アフリカで、黒人はバスに乗ってはいけないという法律が決まった時、長く抗議を続けたのは人権団体ではなくバス会社だったという話です。
理由は単純で、乗客が減るからです。差別の法律は、バス会社にとっては売上が消えることを意味しました。だから正義感からではなく、商売として反対し続けた。
ここが資本主義の面白いところだと思いました。善意がなくても、利益を追うだけで差別に抵抗する力が働く。人の心に期待しなくても仕組みとして作用する、というのは強いです。
麻薬の密売人ですら、効率のいいエネルギーを選ぶ
もう一つ印象に残ったのが、麻薬の密売人のような「悪い人たち」でも、利益を追求するために効率のいいエネルギーを使うという話です。
思想も倫理も関係なく、コストが安くて効率がいいほうを選ぶ。それが結果として資源の無駄を減らす方向に働く。
この2つの例から見えてくるのは、個人が良い人かどうかに関係なく、利益を追求すること自体が結果的に社会の役に立つ場面があるということです。善人を増やすより仕組みを整えるほうが速い、という話でもあります。
「安い人件費で搾取している」への反論
よくある批判に、先進国の企業が人件費の安い国を搾取している、というものがあります。本書はこれにも反論します。
実際には企業はその国に道路や電柱といったインフラを整備する側にまわっていることが多く、しかも支払っている給料は、その国の相場より高い水準であることが多い、という指摘です。
もちろん労働環境の問題が無いという話ではありません。ただ「進出しないほうがその国のためになるのか」と問われると、そう単純ではない。批判する時も比較対象を持って考えるべきだ、という筋道は納得感がありました。
富む者がさらに富む、しかし長期では平均化していく
格差についての整理も分かりやすかったです。
資本主義では、富んでいる者がさらに富みます。そこは本書も否定していません。ただ同時に、長期で見ると世界は平均化していくとも言います。
一番分かりやすいのが人件費です。安かった国の賃金は、仕事が集まるにつれて上がっていく。上がれば企業は次の国に移り、そこでも同じことが起きる。短期の断面では格差に見えても、長い時間で見ると水準が押し上げられていく、という見方です。
読んで変わったこと:稼ぐことはいいことだと再認識できた
自分がこの本から受け取った一番大きいものは、お金を稼ぐのはいいことだ、と改めて思えたことでした。
21歳で事業をやっていると、金儲けという言葉に後ろめたさを感じる瞬間が普通にあります。世の中の空気として、稼ぐことをどこか下品に扱う感覚があるからです。
でもこの本の立場だと、利益を追うこと自体が社会の役に立ちうる。バス会社が商売として差別に反対したように、稼ぐという動機は思想よりも安定して働きます。自分の事業に対する引け目が減ったのは、実用的な効果でした。







